森ビル株式会社

政治と秋刀魚、そして、東京の話(第1回)

2008年09月02日

今月のゲスト:コロンビア大学教授 ジェラルド・カーティスさん

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最初の訪日から、45年。日本政治を現場から研究し、いまや、歴代首相、そして、オバマ大統領候補まで、彼の意見には耳を傾ける。カーティス教授の語る、日本の政治と日本人、そして、ベストセラー『政治と秋刀魚』。

なぜ秋刀魚?近著『政治と秋刀魚』

著書『政治と秋刀魚』
著書『政治と秋刀魚』

コロンビア大学のジェラルド・カーティスです。
今年の春、日経BP社から新しい本を出しました。45年間にわたる日本との関わりについて日本語で書いた本です。『政治と秋刀魚―日本と暮らして四五年』とちょっと変わったタイトルなので「なぜ秋刀魚?」とよく聞かれます。
僕は色々な政治家や、佐藤栄作さん以来のほとんどの総理大臣とも面識があり、いわゆる偉い人たちをよく知っています。日本を理解するのに、一番世話になっているのは、いわゆる秋刀魚を食べる人たちなんです。秋刀魚は、普段みんながよく食べるおいしくて安い魚です。日本に来て最初に住んでいた西荻窪の下宿のおばさんや、博士論文の研究で、大分県のある政治家の家に住み込み、日本のグラスルーツの民主主義の研究をしていたときに出会った人たちやお百姓さん。そういう人たちと話し合い、とても勉強になったことを、ある意味象徴する言葉として「秋刀魚」がいいかなと思いタイトルにしました。

自分のために、そして日本のために

この本は日本の政治について私なりに分析をした本です。学問的な本ではなくて、普通の人が分かりやすく読める本にしたいと思い、政治の話も分かりやすく書いたつもりです。自叙伝のように、自分が経験したことも書いています。本の始まりが、「西荻窪においしいカレーライスのお店があると聞いて行ったら、ボーイさんがスプーンとフォークをくれた。外人だから箸をくれないんだと思って、箸を頼んだけどカレーライスを箸で食べるのがとても大変で、頭を上げたら、周りの日本人が誰一人箸を使っていない。もう顔を赤くして、早く飲み込んで逃げた」で始まるんですよ。面白いエピソードがたくさんあって、それを思い出しながら書いたので、書くことがとても楽しかったんです。
本を書いた理由はいくつもありますが、ひとつは「どうして日本の専門家になったのですか?」「子どもの頃から日本に来ていたのですか?」「ニューメキシコ大学に行ったのは?」など、昔からよく質問されることに全部答えてしまおうと思ったことです。
本に書いてあるように、私はニューヨークのブルックリン、東京でいえば下町で生まれ育ちました。ピアニストになろうと思っていたら、アルバカーキというニューメキシコの都市で仕事が取れ、ナイトクラブでピアノを弾きながら大学に行ったので、ニューメキシコとは全く縁のない人なのですが・・・などといったことを色々と書いています。それからやはり、45年も日本と関わり合い、日本という国、日本という社会、日本人について、私が観察してきて思うことを、正直に素直に分かりやすく、自分のために書こうと思い、そしてお世話になっている日本人の方々の参考になればいいなと思って書いた本です。

プロフール

コロンビア大学教授
1940年ニューヨーク生まれ。1962年ニュー・メキシコ大学卒業。1964年コロンビア大学修士課程終了。 1969年同大学博士号取得、1968年からコロンビア大学で教鞭をとり、現在コロンビア大学政治学教授、早稲田大学客員教授。1973年から91年まで、コロンビア大学東アジア研究所長を12年間務める。慶応大学、政策研究大学院大学、コレージュ・ド・フランス、シンガポール大学など客員教授を歴任。中日・東京新聞の客員及びコラムニストのほか、新聞、テレビなど内外のマスコミで活躍。
三極委員会委員、米外交評会委員、米日財団理事。大正正芳記念賞、中日新聞特別功労賞、国際交流基金賞、旭日重光賞を受賞。主な著書に『代議士の誕生』、『日本型政治の本質』、『日本政治をどう見るか』、『永田町政治の興亡』、『政治と秋刀魚』など。