森ビル株式会社

音楽で、言葉で、笑いで、哲学する(第4回)

2008年07月25日

今月のゲスト:クラブキング代表 桑原茂一さん

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ラジオ「スネークマンショー」で風刺の効いた笑いを、クラブ「ピテカントロプス・エレクトス」で原宿にサブカルチャーを、フリーペーパー 『Dictionary』でメディアの可能性を、新しい喜びと驚きを生み出し続ける桑原さん。そんな彼が思う、今、私たちが考えるべきこと。

第4回 「媒体」である自分

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YMOとスネークマンショーのアルバム「増殖」

僕自身、いつも思うのは、自分は「媒体」だということ。あくまでも、色々なものを吸収して、この体全部をスルーして出ていくという媒体役だと思いますね。だから、別に自分が主で何かがというのではなくて、たまたま自分の体をスルーして出ていくというだけの、何にもない自分だと思うのです。人間は、人に喜んでもらうことが一番幸せなんじゃないかな。だから、音楽をやろうが、絵を描こうが、誰かに料理をつくってあげようが、人が喜ぶ顔を見たいんじゃないですか。それが多分、人間が生きる上で、一番の幸福感だと思います。

僕は茂木健一郎さんにとても影響を受けているのですが、なぜ今、茂木さんがとても必要とされているか。「脳科学」という人間探究は、高い山に登ったり速い車をつくったりするよりも、実はもっと大事なことであったのに、どうも後回しにされていたような傾向が長いこと続いていました。けれども、今は点検の時で、俺たち人間がどういうものなのかということをもう一度見直そうというのです。それは、とても正しい行為ですよね。だから茂木さんの役割は本当にありがたいというか、ドンピシャというか、そこの先ですよね。それは科学者のやる方法論なんだろうけれど、科学者でない普通の我々がどうやるかというのも大事だと思うんです。

「DJ」という考え方

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クラブキング ロゴマーク

僕ら選曲家、DJでも何でもそうですが、考え方だと思うのですよ。DJという考え方ですよね。今まではレコードを聞いて楽しむということから、レコードを「こんなのあるよ」と伝えるというのはあったけれど、それを組み合わせて1つの新しい表現にしていったわけですよね。そこに思想もあるでしょう。そのあたりが一番大事で、結果として何かの形は残っていくのだろうけど、やっぱり人は人で動くものだと思うから、考え方をつくっていかないと意味がないんじゃないかと思うんですよね。
だから僕らは今、どういう考え方が生まれるかなと、模索しながらやっていますが、選択肢の多い社会が、やはりいいと思うんです。例えば、絵を描いて「お前、絵下手だな」と言われたら、「俺はもう一生、絵を描いてはいけないのか」となってしまう社会ではなくて、「絵は下手かもしれないけど、映像だったら、すごく上手だし」みたいな社会がいいのです。自分を幸福にしてくれるということは、人をも幸福にするということ。それをあらゆる人が持ち得る社会が一番いいわけですよね。そういうことを、どう思想化していくかということではないかと思うのです。

僕らが前に進むためのエネルギー

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演劇「甘い誘惑」タイトルロゴ

僕らはたまたまこういう環境にいるので、まだ分からないものや見たことがないものに出会いたいなといつも思っています。昔、ビートルズを聴いた時に「ガーン」と思い、生きるということがすごく楽しかったんだ、と感じたんです。どの曲がというのではなくて、聴いた時に、こういったものに出会うためにこれからも生きていくんだ、という気がしたんですよ。
そういったことは、いつの時代も変わらない。いいもの、音楽に限らず、ものすごくいい小説の場合もあるし、1枚の絵の場合もあります。僕が前に進むためのエネルギーはそれだけですよね。まずは自分が見ないとね。自分が感動するから、この曲を聞いて「わあ、いいなこの曲。聞いて、聞いて、これいいよ」となるので、選曲家なんてお調子者なんです。

関連リンク

プロフール

選曲家/プロデューサー/株式会社クラブキング代表。
1973年より米国『ローリングストーン』日本版を創刊号から運営、'77年『スネークマンショー』をプロデュースしYMOと共演、同年『コムデギャルソン』のファッションショー選曲を開始する。
'82年原宿に日本で初のクラブ『ピテカントロプス』をオープン、'89年フリーペーパー『dictionary』を創刊、'96年東京SHIBUYA FMにて「club radio dictionary」を開始する。
'01年の911を機に発行された坂本龍一氏とsuspeaceが監修する『非戦』に参加したのをきっかけに、独自の世界観をコメディという切り口で表現する「コメディクラブキング(CCKing)」を展開。
現在、フリーペーパー/ウエブ/ポッドキャスト/コミュニティラジオ/TV/携帯サイト/映像表現/コメディライブ、またそれらを統括するWEB「メディアクラブキング」をプロデュースし、LOVE&PEACEに生きるオルタナティブなメディアを目指し活動を続けている。