森ビル株式会社

音楽で、言葉で、笑いで、哲学する(第3回)

2008年07月18日

今月のゲスト:クラブキング代表 桑原茂一さん

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ラジオ「スネークマンショー」で風刺の効いた笑いを、クラブ「ピテカントロプス・エレクトス」で原宿にサブカルチャーを、フリーペーパー 『Dictionary』でメディアの可能性を、新しい喜びと驚きを生み出し続ける桑原さん。そんな彼が思う、今、私たちが考えるべきこと。

第3回 20年の残骸フェア「CLUB KING LIMITED STORE」

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CLUB KING LIMITED STORE 内観

フリーペーパー「dictionary」の20周年イベントを、縁のある街、原宿のラップネットシップで20日間開催しました。「CLUB KING LIMITED STORE」という、20年の残骸フェアです。
ガレージルームのような感じでしょうか。僕らは生きている間、色々な夢や希望や思いがいっぱいあっても、その通りにいかなくて、そういうものの残骸がいっぱい残るわけですよ。その残骸の見本市のような感じです。たくさん買ってしまったレコードを大放出したりしました。といっても本当に自分が大事にしているものを出したかといわれると、2、3枚、いや、2、30枚ぐらいは出しているのではないかと思いますけどね。本当は、メディアと同じ感覚でできたらいいなと思ったりもしますが、やはりどうしても限定的であることと、かかるリスクという問題を考えると、ちょっと難しいですよね。本当はやりたいことがたくさんあるんですけど、今回はとりあえず「残骸なんだけど見に来る?」みたいな感じでしょうか。

選択肢の多い社会を子どもたちへ

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CLUB KING LIMITED STORE 内観

テレビのニュースなんかもそうですが、ある殺人事件が起こったら、どのチャンネルをひねっても、全部同じニュースを流していますよね。子どもがこれを見たらと考えると、「世の中って、まず怖い」と思うだろうし、「何か未来って不安」と思うかもしれない。そういうことを小さい時からメディアはずっと垂れ流し続けている。新聞もそうですよね、ほぼ一面どこも同じ。でも、他の国ではそんなことないと思うんです。メディアが競っているから、「ここがこっちのニュースを流すんだったら、こっちはこうだ」と。
それが多分一番健全だと思うんです。チャンネルをひねったら、殺人事件のことをやっているかもしれないけれど、すごい一族の赤ちゃんが生まれたニュースをやっているかもしれない。色々なチャンネルで色々なことをやっていれば、「まあ人生色々あるからな」と、子どもはすごく選択肢の多い社会で生きていけるということですよね。今のように、本当に1個しかない未来ではかわいそうすぎる。ただそれはみんなでやってきたことだから、みんなで反省しなければいけないんですけれどね。
そういう時に、何か、実際に体で感じてもらえる場があるといいなと思うのです。例えば、すごく飛躍しますけれど、宇宙にロケットでドーンと行って、帰ってくるとみんな仙人みたいになっているとか、よく言いますよね。悪い政治家を全部入れて飛ばして、帰ってくれば、この国も結構平和な国になるし、それが出来るなら、そういう場所をつくればいいのですけれど。

エンターテイメント農園 楽しくなければ人は集まらない

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CLUB KING LIMITED STORE 内観

今後は「エンターテイメント農園」をやりたいですよね。人間の脳というのは、ものすごい力を持っていることにまだ気づいていないのかもしれない。例えば「農業」を考えた時に、汚いんじゃないか、大変じゃないか、つらいんじゃないかって思ったとしても、もしこれが楽しいものだというようなプレゼンテーションができたら、みんなやるのではないかと思うんです。日曜日に野球やサッカーをしたり、ボーリングや映画を見に行ったり、ゲームをしたりするのも楽しいけれども、そういった時間が、土と戯れたりする時間に変わるかもしれませんよね。
田植えをすればヒルに血を吸われたりすることもあるかもしれない。でも、そういうことの引き換えに得られるものがどのぐらい大きいか、という経験をすると、生命力が高まるというか、生きることに対して自信がつくというか、人間が昔のように強く太くなる。そんな方向にエンターテイメントとして向かっていかなくてはいけないと思うのです。だって、人間は快楽主義者だから、楽しくなければ人は絶対に集まってこない。楽しくて、楽しくて、1回行ったら「また行きてぇ」と思うようにならないとだめだと思うのです。すごく飛躍した言い方かもしれないけれど、そういうものをつくり出すのが人間の知恵だと思います。今あるものを否定するのは簡単だけれど、それを言ってても始まらないからね。じゃあ、何をやればいいのかとなった時に、アクションを起こして形として見せてやるというのが大事なような気はしますね。

関連リンク

プロフール

選曲家/プロデューサー/株式会社クラブキング代表。
1973年より米国『ローリングストーン』日本版を創刊号から運営、'77年『スネークマンショー』をプロデュースしYMOと共演、同年『コムデギャルソン』のファッションショー選曲を開始する。
'82年原宿に日本で初のクラブ『ピテカントロプス』をオープン、'89年フリーペーパー『dictionary』を創刊、'96年東京SHIBUYA FMにて「club radio dictionary」を開始する。
'01年の911を機に発行された坂本龍一氏とsuspeaceが監修する『非戦』に参加したのをきっかけに、独自の世界観をコメディという切り口で表現する「コメディクラブキング(CCKing)」を展開。
現在、フリーペーパー/ウエブ/ポッドキャスト/コミュニティラジオ/TV/携帯サイト/映像表現/コメディライブ、またそれらを統括するWEB「メディアクラブキング」をプロデュースし、LOVE&PEACEに生きるオルタナティブなメディアを目指し活動を続けている。