森ビル株式会社

僕の好きな「ヒルズたち」(第3回)

2008年04月18日

今月のゲスト:編集者 石川次郎さん

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この春5周年を迎える六本木ヒルズ。
東京とその時代の語り部として完成前からこの街を見つめ、街の完成後はフリーペーパー「ヒルズライフ」のプロデューサーとして街と歩んできた石川さんが語る、僕の好きな東京、そして「ヒルズたち」。

第3回 ヨーロッパの都市独特の陰影

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六本木ヒルズと東京ミッドタウン

ロンドンやパリ、ニューヨークもそうですが、長い歴史を持つ西欧の都市はどこを見ても、都市独特の陰影のようなものがあると思います。
モニュメンタルな大きな建造物、それから華やかな目抜き通り、必ずそういうものがありますよね。同時に、そういった歴史のある古い都市、特に下町やダウンタウンには、小さな路地や、アレイといわれる横丁、それからパッサージュ、アーケードといったものがたくさんあるじゃないですか。それは一種の都市のディテールだと僕は思うのです。
見た目、パッとは変化がない。日本のように、スクラップ&ビルドという思想があまりない。変えようがないヨーロッパの都市だと、そういった都市のディテールのようなものが、そのまま残るでしょう。僕は、あれが街を面白くしていると思うのです。

人間がホッとする場所「横丁」

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麻布十番から、六本木ヒルズへと続くさくら坂

東京のように、古いものは壊してしまえというのは、必要な考え方だと思うし、江戸の昔から、日本にはあったことだと思います。だけど、そのことだけで街ができ上がってしまうと、もしかしたら、ディテールの部分、都市の陰の部分のようなものを一気になくしてしまう、取り壊してしまうという可能性もあるわけです。だから、僕は都市開発をする人たちは、その辺を気をつけなければいけないのではないかと思います。都市には、そういったひだの部分も必要なんだと。
東京の下町にも、ずいぶんと古いものが、少なくなってしまったけれど、行くと何かちょっとホッとするじゃないですか。ああいうものを残しながら開発していくということ。そうすると大きな開発と開発の間に、ちゃんと昔の都市の名残が残っている。そういうことがうまくできれば、東京もさらに楽しい都市になるのではないかという気がします。ヨーロッパでは、それが自然に残っているのですよね。
僕は横丁や、そういった小さな路地は、何か人間がホッとする場所だと思うのです。例えば銀座にもあるし、渋谷ののんべい横丁だとか、道玄坂のそばの百軒店がありましたよね。ああいったところは、都市のメジャーな顔ではないけれど、一種の表情だと、都市の残すべき表情だと思います。

都市が線でつながる面白さ

六本木ヒルズができたことで、麻布十番とその周辺がすごく面白くなったんですよね。そういったことが、多分あちこちであると思うのです。防衛庁の跡地だった東京ミッドタウン、そこから至近距離にある赤坂サカス、今度はそこを結んで、点ではなくて、線で面白さが出てくる。全部つながるのではないですか?それが六本木ヒルズまで点の存在ではなくて、全部線になってつながると思うし、そういう面白さを考えるとちょっとワクワクしますよね。
実際、ギャラリーが増えたり、素敵な居心地のいい店が増えたり、そういういい効果が出ています。六本木の駅のところから芋洗坂を降りてくると、あそこは昔は飲食店しかなかったのです。今はちょっとおしゃれな本屋さんやギャラリーが随分できています。それがずっと続いて、六本木ヒルズのゲートタワーの辺りまで、そういう雰囲気がつながりましたよね。そういった都市の変化というのが、僕は面白くてしょうがないのです。

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プロフール

1941年東京生まれ。1964年に早稲田大学卒業後、海外旅行専門のトラベル・エージェントに勤務。1967年2月、平凡出版株式会社に入社。「平凡パンチ」誌で 編集者生活のスタートを切る。「Made in USA」、「SKI LIFE」など実験的雑誌づくりを経て、1976年の「POPEYE」創刊に加わる。現マガジンハウス最高顧問の木滑良久氏との共同作業で、引き続き「BRUTUS」、「TARZAN」、「GULLIVER」などを創刊。各誌の編集長を歴任する。
1991年10月よりマガジンハウス広告局長。1993年2月末同社退社。同年4月、企画・編集プロダクションJI inc (株式会社ジェイ・アイ)を設立。メンバーシップ・マガジン「SEVEN SEAS」(アルク刊)、「Travel Style」(世界文化社刊)などの編集長を務め、現在は六本木ヒルズのフリーペーパー「HILLS LIFE」なども手掛ける。また、六本木ヒルズ内にある「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」や川崎の「LA CITTA DELLA」などの商業施設のプロデュースも行う。
1994年4月より2002年3月までテレビ朝日「トゥナイト2」の司会としても活動。現在、企画にも携わっているBS朝日の番組「男たちの食宴」、「亜細亜見聞録」に出演中。