森ビル株式会社

走り続けるパティシエの今(第4回)

2008年03月21日

今月のゲスト:パティシエ 辻口博啓さん

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「モンサンクレール」や六本木ヒルズ・けやき坂通りの「ル ショコラ ドゥ アッシュ」など様々なスイーツブランドを次々に立ち上げ、今では日本のスイーツ界をリードする存在となった辻口さんが語る、仕事への愛と情熱、野望。そして故郷への思い。

第4回 パティシエの美術館『ル ミュゼ ドゥ アッシュ』

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辻口博啓美術館「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」

石川県七尾市にある『ル ミュゼ ドゥ アッシュ』は〈食べるミュゼ(美術館)〉ということで、シュークルダールという飴の芸術を、みなさんに見ていただいております。
クーブ・ド・モンドというワールドカップで飴細工で優勝していますので、飴に関してのいろいろな表現方法を見ていただきたいと思っています。キラキラ光るし、クリスタリックだし、1つのジュエリーのような側面を持ち合わせた飴の世界というのを見ていただき、「ああ、パティシエでも、こんなことができるんだ」「パティシエにはこれだけの技術というものがあるんだな」ということを皆さんに知ってほしくてやっています。

やはり原点というものをきちんと自分の中で育まないと、ブランドにはなり得ないと思います。わかりやすく言うと、フェラーリがそうであるように、フェラーリが生まれた場所、創設者の名前、それらがいまだに語り継がれています。彼らが生まれたものに対して、生まれた土地に対してものすごく敬愛を持っているということ、そういうものがあって初めてブランドになれるわけですね。
ということは、僕が生まれた石川県七尾市というものを、自分が敬愛しなければ、僕自身がブランドにはなり得ないんだと、そこを飛ばしてしまったら元も子もないと思ったのです。自分はそこで生まれて、ショートケーキに感動を覚えて、そして今こうやって東京を中心に活動できているわけですから、そこの部分はやっぱり大事にしたいのです。
北陸は本当に水がおいしい場所です。他にもとれたての魚、とれたてのミルク、そういうものがどんどん出てくる。子どものころには全く気づかなかった素材に今になって気がつきました。こんなにおいしいのがあるんだ、五郎島金時、能登大納言、ブルーベリーもそうだし、能登ミルク、能登の発芽玄米や塩、本当においしい素材がいっぱいあるんですよ。
大人になって見直したら、「あっ、僕の育ったところって本当に素材の宝庫だったんだな」と、改めて思いました。
あとは気風もいいんです。「能登はやさしや、土までも」という言葉、能登を旅した人だと看板を目にすると思います。非常にゆっくりと時間が動いていて、人情も厚い。雪も降るし、風もひどいし、みんなが寄り集まって生活していかなければいけない、そういう場所でもあるのです。だからこそ非常にコミュニケーションがとれているし、人情味もあって、何か人を思いやるということが当たり前のようにされている。そういう場所だと思います。

プロフール

1990年「全国洋菓子技術コンクール」で最年少優勝を機に、国際コンクールに出場し、優勝を重ねる。1997年フランス菓子のワールドカップといわれる「クープ・ド・モンド」飴細工部門個人最高得点獲得を含み、国際コンクールに日本代表として出場し3つのタイトルを獲得。1998年自由が丘に「モンサンクレール」をオープン後、コンセプトの異なる10のスイーツブランドを展開。2006年に開館した「辻口博啓美術館」では、6mにも及ぶアメの壁画など、『五感で堪能できるアート空間』を創造し、これまでの「パティシエ」の概念を大きく打ち破る。
現在は各店舗の製造、運営の傍ら、各企業のプロデュースやコラボレーションの他に、著書執筆や講演会、テレビ、ラジオの出演多数。活動は多岐に渡りその活動は、ラジオパーソナリティーをつとめる「アトリエアッシュ」や、自らがナビゲートするライフスタイルマガジン「H・STYLE」発行、公式ブログ『辻口日記』と様々な分野で発信。7月よりスーパーパティシエのお菓子教室「ECOLE-H」により動画によるお菓子教室を配信中。2007年11月には和楽紅屋の3号店目をオープン。辻口の提案する東京土産の「和楽(わらすく)」が大丸 東京店で購入可能になりました。