森ビル株式会社

走り続けるパティシエの今(第3回)

2008年03月14日

今月のゲスト:パティシエ 辻口博啓さん

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「モンサンクレール」や六本木ヒルズ・けやき坂通りの「ル ショコラ ドゥ アッシュ」など様々なスイーツブランドを次々に立ち上げ、今では日本のスイーツ界をリードする存在となった辻口さんが語る、仕事への愛と情熱、野望。そして故郷への思い。

第3回 つくる人も贈られる人も、両方がハッピーになれるお菓子

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トリュフ ノワール

記念日に人から贈られた思い出、つくってあげた思い出はいいものですよね。つくる方にとっても、思い出になります。自分でつくって、食べてもらえた、喜んでもらえたというのは、本当にうれしいものなんです。何気ない一言であるけれど、「おいしかった」と言われることも、僕にとって「本当にやっていてよかった」と思える瞬間です。作る方も思い出をもらえるのです。お菓子というのはつくる方も、贈られる方も、「ああ、つくってよかった」「ああ、もらえてよかった」という、両方がハッピーになれるものなんです。
バレンタインのチョコ1つにしても『ル ショコラ ドゥ アッシュ』で買ったチョコが何か始まるきっかけになるかもしれないですよね。うちのチョコレートで何人が結婚していったのかな、なんて思ったりして。もしかして俺、キューピットかも、みたいな(笑)。

ミステリアスな素材・ショコラ

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キリマンジャロ

ショコラというのは、マヤ文明の6000年前からあるもので、もともと飲むものでした。それが、薬として、また時として通貨として、人間の生活の中になくてはならないものになりました。それがショコラという素材です。
そのショコラが徐々に変化し、固形になってから、まだ200年ぐらいしかたっていません。それまでは液状だったわけですから、たかだか200年か300年ぐらいの歴史しかない状態が今の固形のショコラなんです。6000年の歴史を考えると、たかだか200年なんです。ということは、まだまだショコラの世界というのは変化するだろうし、もっと進化するだろう。そして、何かが隠されているだろう、そう考えると、非常にミステリアスな素材なんです。
僕は常にショコラの新しいプレゼンの仕方を考えています。素材ひとつとっても、和の素材、例えば、酒粕をテーマにショコラを作り上げたり、時としてはゆずや夏みかんといった和素材をうまく使いながら、独自の新しいショコラの世界を常に研究しています。

世界のパティシエを生み出したお菓子

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リッペ

僕の原点となるお菓子はショートケーキです。
小学3年生のときに初めて食べて感動しました。皿をなめていたぐらいです。「ああ、こんなおいしい食べ物が世の中にあるのか!」と思いました。それでパティシエになったのです。
もともと実家は和菓子屋なので、ケーキはないじゃないですか。目の前で作っていたので、あんこは食べていました。もともと洋菓子・和菓子というのは同じスイーツなんだけれど、製法が全く違います。和菓子の場合は、あんこみたいに煮詰めていって空気を取り出す作業、片や洋菓子の場合は卵をホイップして空気を取り込む作業でしょう。空気を抜く作業と空気を入れる作業だから、全く違う、相反するスイーツなんです。だからこそ、全く真逆のスイーツを食べたときの感動、あのときのインパクト。口の中に入れるとシュワッと溶けてしまう、生クリームとイチゴの酸味と甘味のバランス。初めて口にしたときの驚きといったらすごいものでした。毎日まんじゅうを食べていたので。
そのときの感動は、パティシエになった今ももちろん持ち続けています。小学3年生のときのショートケーキがなかったら、今の辻口はなかったかもしれないのです。

プロフール

1990年「全国洋菓子技術コンクール」で最年少優勝を機に、国際コンクールに出場し、優勝を重ねる。1997年フランス菓子のワールドカップといわれる「クープ・ド・モンド」飴細工部門個人最高得点獲得を含み、国際コンクールに日本代表として出場し3つのタイトルを獲得。1998年自由が丘に「モンサンクレール」をオープン後、コンセプトの異なる10のスイーツブランドを展開。2006年に開館した「辻口博啓美術館」では、6mにも及ぶアメの壁画など、『五感で堪能できるアート空間』を創造し、これまでの「パティシエ」の概念を大きく打ち破る。
現在は各店舗の製造、運営の傍ら、各企業のプロデュースやコラボレーションの他に、著書執筆や講演会、テレビ、ラジオの出演多数。活動は多岐に渡りその活動は、ラジオパーソナリティーをつとめる「アトリエアッシュ」や、自らがナビゲートするライフスタイルマガジン「H・STYLE」発行、公式ブログ『辻口日記』と様々な分野で発信。7月よりスーパーパティシエのお菓子教室「ECOLE-H」により動画によるお菓子教室を配信中。2007年11月には和楽紅屋の3号店目をオープン。辻口の提案する東京土産の「和楽(わらすく)」が大丸 東京店で購入可能になりました。