森ビル株式会社

アートの力を表参道に(第4回)

2008年02月22日

今月のゲスト:アートディレクター 藤本やすしさん

0802_img.jpg

「BRUTUS」「VOGUE NIPPON」など100誌以上にも及ぶ雑誌に関わってきた藤本さん。旧同潤会青山アパートにあったギャラリーのオーナーとして、表参道ヒルズとのゆかりも深い人です。そんな藤本さんが語る表参道。そして東京。

第4回 雑誌の世界がいま、面白い!

080222_4.jpg
上)2007年11月に創刊された『BRUTUS TRIP』
下)CAPがデザインを手掛ける『VOGUE Nippon』

最近、雑誌の世界が面白いんです。電子テクノロジーの時代が来て、WEBマガジンが出て、新聞とか雑誌など紙媒体のものを読まなくなって、みんながみんなネットで情報を得るようになって…。僕の仕事は紙の雑誌がメインだから、もう仕事が無くなってしまうのかと心配していましたが、最近また紙の雑誌が注目されているみたいです。
昨年11月、銀座で雑誌デザインの展覧会を企画したんですけど、結構反響が大きくて驚きました。そこであらためて「紙の雑誌ってどうなんだろう」と見つめ直し、戦後に出ていた大判グラフ誌が、今だからこそ面白いんじゃないかと感じています。そして、紙の手触りや紙肌の感じを味わって楽しみたいという人が増えているとも思います。その欲求は、さまざまなテクノロジーが進化し、ものすごい勢いで進歩していく時代のなかで、その進歩に追いつくため前につんのめって生きている人たちが、ゆっくりしたい、癒されたいと感じ始めたからなのかもしれませんね。そう考えると、より興味深いです。

大判グラフ誌はカルチャー誌の分野に多く、海外では『ルーラ』とか『アメリーズ』とか、趣味的な雑誌が多いですね。日本では、まだまだカタログ雑誌が全盛なので少ないのですが、そろそろカタログ雑誌にみんなが飽き始めてきていると思うんです。つまり、カタログ雑誌は広告主導型の雑誌ですから、そうではない雑誌を求めているのではないかと。それはある種、鑑賞物というか読み物というか、作り手側が趣味的に編集し、その感覚に共感する人たちが買うというような雑誌です。
日本の雑誌界にその萌芽があるかというと、昨年『BRUTUS TRIP』という本に携わったのですが、それが象徴的ですね。旅雑誌ですが、カタログ雑誌ではなく大判グラフィック雑誌です。他にも『BRUTUS』という雑誌は、メンズ誌でもレディス誌でもなくカルチャー誌とも違う、ファッション&ライフスタイル誌というか、くくることができない雑誌というのが面白い。さらに月2回出ていて、特集が定まっていないのも斬新で、編集者の趣味とカルチャーに対する視点が重要な雑誌です。あと『Casa BRUTUS』は、建築業界の人しか読まないというイメージだった建築雑誌に、ファッションや料理などをからめて、建築を1つのカルチャーとして見立てたというところが斬新だったと思います。
先程も言いましたが、今、紙の雑誌が再注目されています。インターネットが普及してWEBマガジンがたくさん出ましたが、それらはビンテージにならないんですよ。でも紙の雑誌はビンテージになる。そういう残っていく物に自分が携わっていたんだということに気づいて、ビンテージになるような雑誌を作りたいと、最近強く思っています。今、個人的に一番つくりたい雑誌はビジュアル誌ですね。例えば植物の本や動物の本のような、割と明快なものを単純なつくりで、ビンテージとして残るような物を作ってみたいです。

関連リンク

プロフール

1983年にデザインオフィス「Cap」設立。アートディレクターとして過去に『マリークレール』『流行通信』『olive』『STUDIO VOICE』『Tokion』など、現在では『VOGUE NIPPON』『GQ JAPAN』『GINZA』『BRUTUS』『CASA BRUTUS』「BRUTUS TRIP』を手掛ける。デザイナーとして関わった雑誌は約100誌にのぼる。また、ルイ・ヴィトン、表参道ヒルズの広告印刷物や、アパレルのシーズンカタログなどのアートディレクターも務める。
1996年gallery ROCKETを原宿にオープン。2度の移転を経て2007年11月南青山にリオープン。また1999年には編集および広告制作を手掛ける RCKT/Rocket Companyを設立。ギンザグラフィックギャラリーにて2004年3月「雑誌をデザインする集団CAP展」、2007年11月「WELCOME TO MAGAZINE POOL展」を開催。著書として、2004年『雑誌をデザインする集団キャップ』、2006年『雑誌をデザインする人と現場とセンスの秘密』、2007年『雑誌デザインの潮流を変えた10人』をピエブックスより発行。