森ビル株式会社

アートの力を表参道に(第1回)

2008年02月01日

今月のゲスト:アートディレクター 藤本やすしさん

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「BRUTUS」「VOGUE NIPPON」など100誌以上にも及ぶ雑誌に関わってきた藤本さん。旧同潤会青山アパートにあったギャラリーのオーナーとして、表参道ヒルズとのゆかりも深い人です。そんな藤本さんが語る表参道。そして東京。

第1回 表参道とのつきあい

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2006年、再開発によってうまれた「表参道ヒルズ」

こんにちは。アートディレクターの藤本やすしです。
僕と表参道とのつき合いは、かれこれ15年ぐらいになります。90年代前半から現在までずっと、青山や神宮前あたりにオフィスを構えています。デザインやファッションなど、クリエイティブ業界の人たちが表参道周辺にオフィスを設けることが多かったので、僕も他の場所から移ってきました。今も変わらず憧れの街です。
96年には、今の表参道ヒルズの場所にあった同潤会青山アパートで、ROCKETというギャラリーを始めました。その頃、すでに同潤会青山アパートはあの辺の一番古い建物で、いずれ再開発かなんかでなくなるということで、若い人たちが新しいコトを始める場になっていたと記憶しています。 ROCKET裏の中庭には大きな夏みかんの木があって、実がなるとみんなで採って、隣の人がそれでマーマレードを作ったりしてました。それぐらい野性的というか自然なままの場所が、表参道にもあったんです。当時と現在とでは、全く雰囲気が変わってしまいましたね。

表参道は、例えばジョニオ君やNIGO君のショップの隣にラグジュアリーブランドのショップがあるように、原宿的なストリートと青山的なラグジュアリーがうまく混在した街だと思います。表参道ヒルズは、スペース的にはそういう原宿と青山をつなぐポジションですね。表参道ヒルズの前を歩く人たちにとって、表参道はファッションショーのランウェイかな。そしてそのステージ横にファッションビルがあるという感覚。僕は表参道ヒルズの中に考え事や物作りの準備をするための部屋を持っているので、毎日のように少し緊張しながらそのランウェイを歩くのを楽しんでいます。とにかく何をするにも便利な場所であることは確かです。

ギャラリーROCKETの誕生

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ROCKETは1996年同潤会青山アパートにオープン

僕は雑誌のデザインやアートディレクションをしているので、いろいろなイラストレーターやフォトグラファーから作品の持ち込みを受けます。でも雑誌だけでは、彼らが活躍する場をそんなにたくさんは提供できません。それならギャラリーでもやろうかなと思ったのが、ROCKETを始めるきっかけでした。ギャラリーという場があれば、いろいろな人たちがそこに集まり、出会いや仕事のチャンスも増えるんじゃないかと…。
ROCKETは1週間毎に展示内容が替わるギャラリーだったんですが、週替わりということは月に4回、年間通して40本以上もの企画を開催するわけで、それはあたかも雑誌のページをめくるような感覚でした。そして展示内容を僕が選べるということで、まるで雑誌の編集長になったような気分。新しい企画や作品を探し編集して展開していく、そういうギャラリーでした。
ギャラリーROCKETを通しての出会いや思い出は数えきれないほどあります。当時、ギャラリーというと静かに「シーッ」という雰囲気で作品を鑑賞する場がほとんどでしたが、ROCKETはギャラリーというよりスペースという考え方をしていたので、展示方法も自由でしたし、音楽もがんがんかけていました。いま活躍しているグルーヴィジョンズやヒロ杉山さん、蜷川実花さんなど、いろいろな方がROCKETで面白いことをやってくれました。
時代的には、カリスマといわれる藤原ヒロシさんやNIGO君が登場し、まさに裏原宿が盛り上がってストリートからいろいろなものが生まれていた頃です。ちょうどその頃、ボーダレスに活躍する人たち、例えばスタイリストであり写真も撮る人とか、デザイナー兼DJとか、クラブイベントをやるような人たちがいっぱい出てきて、そういう人たちもROCKETを使ってくれていたので、サロンとしても面白い空間だったと思います。

関連リンク

プロフール

1983年にデザインオフィス「Cap」設立。アートディレクターとして過去に『マリークレール』『流行通信』『olive』『STUDIO VOICE』『Tokion』など、現在では『VOGUE NIPPON』『GQ JAPAN』『GINZA』『BRUTUS』『CASA BRUTUS』「BRUTUS TRIP』を手掛ける。デザイナーとして関わった雑誌は約100誌にのぼる。また、ルイ・ヴィトン、表参道ヒルズの広告印刷物や、アパレルのシーズンカタログなどのアートディレクターも務める。
1996年gallery ROCKETを原宿にオープン。2度の移転を経て2007年11月南青山にリオープン。また1999年には編集および広告制作を手掛ける RCKT/Rocket Companyを設立。ギンザグラフィックギャラリーにて2004年3月「雑誌をデザインする集団CAP展」、2007年11月「WELCOME TO MAGAZINE POOL展」を開催。著書として、2004年『雑誌をデザインする集団キャップ』、2006年『雑誌をデザインする人と現場とセンスの秘密』、2007年『雑誌デザインの潮流を変えた10人』をピエブックスより発行。