森ビル株式会社

魂が乗り移った顔たち(第2回)

2008年01月11日

今月のゲスト: 石井竜也さん

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映画監督。プロデューサー。インダストリアルデザイナー。そしてもちろんミュージシャン。様々な顔を持つ石井さんが黙々と作り続けている「顔たち」。作家の無意識と衝動が作り上げてきた、独特かつ衝撃的な世界が六本木ヒルズに登場です。

第2回 造形への興味、アートとの関わり

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制作風景

もともと造形にはすごく興味があって、小さいころから油絵をずっと描いていました。絵は好きで、大学も受験したのですが落っこちてしまって。そのとき親父に「一浪させてくれないかな」といったら、親父が「お前、ゴッホを見てみろ、別に絵の大学を出たわけじゃないのに世界的になっているじゃないか。絵は人に教わるものではないんだ、自分で修行するもんなんだよ」と親父に言われまして。「そうか、確かにそうかもしれないな」と浪人をあきらめ別の大学に進みました。それで30過ぎてから親父に聞いたら、「いや、実は浪人するとお金がかかるから諦めてもらいたかったんだ」と、その一言で片付けられましたけれどね(笑)。
小さいころから物をつくるのが大好きで、ダンボールの空き箱なんか見つけてきてはいろいろなものをつくったりしていました。うちはおもちゃ屋さんをやっていたので、いたずら小僧が入ってきて、おもちゃを壊したりするんですよ。そういう壊れたおもちゃなどを組み合わせて違う物をくっつけたり、いろいろな物をつくったりすることが小さいころから好きでした。
そういうところに親父が目をつけたのでしょうか、油絵の先生に自分の家が経営しているアパートをただでお貸しして「そのかわり息子に絵を教えてくれ」と言って、僕は小さいころからその先生に師事してずっと油絵をやっていたのです。
そして大きくなって米米CLUBというバンドを始め、セットやみんなの衣装などのビジュアルを一手に引き受けました。もともとは建築家とか絵描きとかが集まっているバンドで、舞台をつくることがすごく好きだったので、どんどんバージョンアップし、バンドが売れていくに従って巨大なセットを組んでいきました。テレビCMに出るとなると、いつも「石井さん、やってくださいよ」と言われることが多くて、演出もやっていました。ある学校のCMをディレクションさせていただいたのですが、それがCMの賞をとったりして、何か自分が面白いなと思うことを素直に表現していくといいこともあるんだな、と思いました。面白い現象が、今、石井竜也の周りでは起こっているなという、そんな時期でしたね。そんなこんなで、ずっと物をつくる熱というのは、小さいころから冷めません。

「顔魂」制作秘話

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「顔魂」無題2007年

「顔魂」は、まず真っ白い達磨があり、そこに真っ白い粘土で顔を自由自在につくっていきます。簡単につくれるということは恐ろしいことで、素直に自分が出ているということなんですね。例えばデッサンをいろいろとやってこんなものが最終的にはできるという計画のもとにつくっていく達磨も確かに最初のころはありました。でも、やっぱり面白くないんですね。もっと素直でピュアな石井竜也を表現しないとリアルアートとしてはちょっといただけないのではないかなと思って、一切、そういう計画はやめたんです。
そこからのめり込みました。ずらっと10体ぐらいを目の前に並べて、次々と顔をつくるのですけれど、日々、顔の表情も気に入らないものも出てくるわけです。どんどんどんどん鼻を高くしていったり、削っていったり、目の玉をくり抜いていったりして顔の表情が変わって、最終的に落ち着いた顔というのは、到底人間とは思えない顔になったりするのですけれど、これが面白くて。時には人間から遠く離れたような顔になったり、時には邪悪な顔になったり、天使のような、子どもが眠っているような顔になったりして。
無計画というのが、ある意味、自分を出す最大限の表現方法です。だから頭でいろいろなことを考えているというのが「顔魂」をこうしよう、ああしようということではなくて、その日に起こったこと、自分の中で内在しているいろいろな精神状態みたいなものが、すべてその顔に投入されるという日記みたいなものになっているんですね。ですから僕には「顔魂」1個1個は、自分の精神状態の記録のような感じに見えます。だから人前に出すのが恥ずかしいと思うぐらい、ちょっと嫌らしい顔をしている達磨がいたり、さすってあげたいなと思うぐらい、かわいらしい達磨があったり、これは面白いですよ。自分の作品なんだけれど、まるで自分の作品に思わないのですね。そのぐらい、無防備といってもいいぐらいに素直につくってます。
顔の表情というのは、ある意味、筋肉が脳から伝達されて、泣いたり、笑ったり、怒ったりというもの。でも人間は100%の怒りとか、100%の悲しみとか、 100%の笑いという、それだけではないですよね。すごく悲しいんだけれど笑っている顔、それも悲しいじゃないですか。すごく怒っているのだけれど、それをかみ締めている、そういうものもね。だから、ただ笑っている、ただ泣いている、ただ怒っているというのは人間の顔じゃない。ものすごく微妙な、目には見えないような表情も人間は日々しているんです。
そう考えると、表情というのは人間が生きるための伝達方法ということだけではない。人間が猿から進化していく間に、恐ろしいことや、微妙な表情をしなければ伝わらないようなことがいっぱいあってDNAに組み込まれた、そういう情報が全部顔の中にあるんですね。
「顔魂」をつくっていて、そんなことに気づきました。

プロフール

1959年生まれ。'97年ソロ活動始動。毎回、テーマ性のある趣向を凝らした全国ツアーやアートパフォーマンス、オーケストラライブなどを展開。音楽活動に加えて「大阪HEP FIVE」の空間プロデュースや「鈴鹿8時間耐久レース」の総合プロデュース、'05年には愛知万博「愛・地球博」レギュラープログラムの総合プロデューサーを務める。さらに'02年から音と光のインスタレーション「GROUND ANGEL」を横浜赤レンガ倉庫にて開催。'05〜'06年には広島市の全面協力のもと広島平和記念公園にて「GROUND ANGEL IN HIROSHIMA」を開催する。作品制作にも積極的に取り組み、'97年「空想美術館」'99年「昇展」'02年「NUDE」'06年「VENUSWHITE」といった展覧会を開催。またインダストリアル・デザイナーとしても多くのデザインを手がける。今冬には、映画監督を務めた'94 年公開『河童』と'96年公開『ACRI』が待望のDVDとなった。