HILLS CAST
“東京をおもしろくするアイデア”を持ったゲストをお迎えしてお届けする「HILLS CAST」は、J-WAVEのラジオ番組「森ビル presents 東京コンシェルジュ」内で放送していた森ビルのラジオCMです。
※掲載内容は、取材・放送時点のものです。
魂が乗り移った顔たち(第1回)
2008年01月01日
今月のゲスト: 石井竜也さん

映画監督。プロデューサー。インダストリアルデザイナー。そしてもちろんミュージシャン。様々な顔を持つ石井さんが黙々と作り続けている「顔たち」。作家の無意識と衝動が作り上げてきた、独特かつ衝撃的な世界が六本木ヒルズに登場です。
第1回 「顔魂」って何ですか?

「顔魂」とは何? 簡単に言ってしまえば「達磨」です。「顔魂」顔の魂と書いてカオダマと呼んでいるのですけれど、よくまあ顔の魂という名前をつけたもんだなと、自分でもちょっと自慢気に人に話してます。この展覧会の副題として「過去と現在が結託して未来を翻弄する」という言葉を考えたのですが、何百年も前からずっと信仰されている日本の伝統工芸の1つである達磨と、現代に生きているアーティストが握手をして作られたこの「顔魂」が、もしも未来のどこかでゴロンと見つかったときに「これは、いつの時代のものだったんだ?」「どの時代のものなんだろう?」というふうに、未来の人がちょっと頭をひねってしまうような、そんないたずらをしてみようという展覧会です。
ふつう達磨というと、神棚にある大きいのや小さいの、選挙のときに目を入れる、そういう印象しかないと思うのですが、僕はあるきっかけで真っ白い達磨に出会いました。エクトル・シエラという絵を描いているブラジル人アーティストの青年がいるのですが、彼は9.11の同時多発テロをきっかけに、あのビルでお父さんやお母さんを亡くした子どもたちの絵と、アフガニスタン侵攻でお父さん・お母さんを亡くした子どもたちの絵を交換して、2つの魂、 2つの心を癒していこうと1人活動をしています。
その活動に僕は非常に感銘を受けたのです。というのは、僕はいつもコンサートなどの練習が終わって帰って来ると、テレビのニュースを小さい音にして見ているのですが、同時多発テロのときに、テレビであの映像を見て「新手の映画が始まったのかな」と思っていたのです。そしてあれが本当の事件だったというのに気がついたときに、「自分は何て平和ぼけしているのだろう」と思ってショックを受けました。その後、何か俺にできることはないかなと常々思い続けていたところで、運命的にエクトル・シエラ君に出会いました。自分のコンサートの収益金の一部を彼に寄付することで平和活動の一端に参加できるかなと思って始めたのですが、「自分の活動に参加してくれた人全員に、白い達磨にサインをしていただいているんです」と彼から渡されたのがきっかけで、真っ白い達磨に出会うことができたのです。
真っ白い達磨との出会い

普通、達磨といえば一般的には赤い達磨ですよね。そうではなくて真っ白い、何も着彩されていない達磨というのが、何ともキュート、無防備でかわいかったんです。サインだけして白い達磨を渡すのもちょっとしゃくだな、絵でも描いてみようと思って「1日待って欲しい」と言って家に持って帰りました。けれども達磨に絵をかいたからってそんなに珍しいことじゃないなと思って、何か施せないかなと粘土をくっつけてみたら非常に吸いつきがいいんですね。それで顔をつくってみたら、これが面白い。これはすごいなと。そこからずっとつくり続けています。
達磨というのは、ここ3〜400年の日本の民間信仰にずっとある神様の1つですけれど、よく考えてみると片目を入れて、もう片方の目を入れるときには大願成就していないといけないというのは、神様に命令しているみたいでほんとは失礼なのではないかという気がしました。でもそのぐらい達磨さんという神様は、寛容なのかなと思ったので、顔ぐらいつくらせてもらってもいいんじゃないかなと。それで白い達磨を取り寄せて10個、20個、30個と顔をつくり始めたのが、ちょうど今から3年ぐらい前でした。今ではいろいろな大きさ・形・顔で100種類以上つくっています。
その達磨を「顔魂(かおだま)」と称して『顔魂〜KAODAMA〜』TATUYA ISHII EXHIBITION 2008ということで展覧会をやることにしました。アンディ・ウォーホールがキャンベルスープの缶を絵にしてしまったように、僕もまだまだ勉強の身ではありますがポップアートとして、達磨を石井竜也的にちょっとつくり替えてみよう、単なる達磨を達磨じゃない芸術に仕立ててみようという趣向です。見た事もない大きさの達磨がボーンと鎮座してますので、これを見るだけでも相当すごいんじゃないかなと思いますし、達磨も80近く並んでいるので、展覧会を見に行ったというよりも、80ぐらいの顔にじっと見つめられているような、そんな感覚になる方もいらっしゃるのではないかなと思います。これは、ちょっと東京を面白くする1つになる事ができたら良いなと僕は思うのです。
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プロフール
1959年生まれ。'97年ソロ活動始動。毎回、テーマ性のある趣向を凝らした全国ツアーやアートパフォーマンス、オーケストラライブなどを展開。音楽活動に加えて「大阪HEP FIVE」の空間プロデュースや「鈴鹿8時間耐久レース」の総合プロデュース、'05年には愛知万博「愛・地球博」レギュラープログラムの総合プロデューサーを務める。さらに'02年から音と光のインスタレーション「GROUND ANGEL」を横浜赤レンガ倉庫にて開催。'05〜'06年には広島市の全面協力のもと広島平和記念公園にて「GROUND ANGEL IN HIROSHIMA」を開催する。作品制作にも積極的に取り組み、'97年「空想美術館」'99年「昇展」'02年「NUDE」'06年「VENUSWHITE」といった展覧会を開催。またインダストリアル・デザイナーとしても多くのデザインを手がける。今冬には、映画監督を務めた'94 年公開『河童』と'96年公開『ACRI』が待望のDVDとなった。