弊社は今年6月2日をもちまして創立50周年を迎えました。
半世紀前、東京・虎ノ門で創業した小社が、景気の山谷を超えて都市づくりに邁進できましたのも、ひとえに永年にわたる皆様方のご支援ご指導によるものと深く感謝しております。お世話になりました皆様への御礼とご報告を兼ねまして、弊社の半世紀の歩みと次の半世紀に対する決意を記させていただきます。

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日本が敗戦から立ち直ろうと懸命に復興に取り組んでいた時代、私どもは森家発祥の地である新橋・虎ノ門で、周辺との共同建築による賃貸ビルの開発、運営事業に着手いたしました。1957年(昭和32年)に最初の「ナンバービル」を建設し、1959年(昭和34年)、現在の森ビル株式会社を設立いたしました。
なにもかも不足するなか、私どもは高品質で合理的なオフィスをより多くの企業の皆様により安くご提供するために数々のイノベーションを重ね、木造のしもた屋が建ち並ぶ新橋・虎ノ門界隈を近代的なビジネス街にすべく、数多くのナンバービルを建設・運営して参りました。

しかしながら、次の時代を考えたとき、当時は当然とされていた職住分離、用途純化型の都市構造に対する疑問が沸き起こりました。
人々の懸命な努力により、日本経済は「世界の奇跡」といわれる高度経済成長を遂げましたが、一方で、首都・東京では年々職場と住まいが離れ、長く過酷な通勤によって人々の自由な時間や心のゆとりが失われていきました。同時に、都心から郊外にいたるまで中低層の建物が建て詰まり、緑も減少して都市環境は悪化の一途をたどりました。
大都市の暮らしから失われつつある「時間」「緑」「文化」「安全」をもう一度取り戻し、都市で暮らす喜びや豊かさを実感できる街づくりをしたいと願い、17年にわたって取り組んだのが「アークヒルズ」の再開発事業です。

職・住・遊・食・学・交・医・泊・癒、文化やエンターテイメントといった多彩な都市機能を徒歩圏で享受できる場と時間を創り出すため、あるいは、地震などの災害に怯えることなく、心身ともに健康的な暮らしを取り戻すためにはどうしたら良いのか。
私たちは当時施行されたばかりの都市再開発法に基づき、地域の方々とともに、建物を超高層化することによって、職住遊等を一体化した都市モデルと新たな都市型ライフスタイルの実現を目指しました。こうして1986年(昭和61年)にアークヒルズが完成いたしました。

共同建築によるナンバービルの時代を弊社の第一ステージとするならば、第二ステージはアークヒルズを起点とする職住近接型の「ヴァーティカル ガーデンシティ(立体緑園都市)」への挑戦でした。
こうした都市づくりは、国内では「愛宕グリーンヒルズ」「元麻布ヒルズ」「六本木ヒルズ」「表参道ヒルズ」といったヒルズシリーズとして結実し、特に六本木ヒルズにおいては、世界に向けて様々な情報を発受信する文化都心構想を展開し、オフィスや住宅、商業施設だけではなく、放送局、美術館、展望台、カンファレンス、クラブレストラン、ホテル、映画館、アリーナ等様々な機能を併設し、都市再生のモデルプロジェクトとして世界の注目を集めました。ここでは、「アーツセンター」や「タウンマネジメント」という新しい概念を導入し、「街」の運営、都市における人々の営みや交流をサポートしております。
また、海外においては中国・上海の「上海環球金融中心(上海ワールドフィナンシャルセンター)」にて展開するなど、森ビルの街づくりは二つとして同じものはなく、地域の特性や時代の要請に合わせて、様々に開花して参りました。

そして今、首都・東京は本格的な再生に向けて都市の骨格からつくりかえる段階に入っております。
地震、国際化、少子高齢化、知識情報社会、そして地球環境問題への対応。
日本、そして東京がこれらの課題を克服し、金融危機後の新しい世界の枠組みのなかでアジアの核となるためのひとつの布石が「都市再生」ではないかと思います。
世界的な金融危機とそれに続く景気低迷という厳しい環境下ではありますが、こうした時期こそ、人々の営みと経済活動の舞台となる都市の再生を粛々と進めることによって日本の磁力や魅力、国際競争力を高めつつ、内需拡大と雇用創出を図れるのではないか、私どもの社会的使命はまさにそこにある、と決意を新たにしております。

こうした決意のもと、次の半世紀を弊社の第三ステージと位置づけ、21世紀の新しい都市づくりに取り組んで参ります。そのなかで「ヴァーティカル ガーデンシティ」をさらに進化させた都市モデルを実現させ、皆様にお見せしたいと思っております。

「ヴァーティカル ガーデンシティ」の進化形は、空だけではなく、地下や人工地盤下まで有効に使うことによって地表を人と緑に解放するという構想です。
都市の空と地下に生み出した空間に多彩な都市機能を重層に組み入れることによって、徒歩や自転車、トラム等で移動できる街が出現します。都心の集積度を高めながら、同時に都市のなかに小自然を甦らせ、さらに郊外や地方の大自然を回復させる。メリハリのある国土利用によって、全体としての緑を増やして地球温暖化やヒートアイランド現象を抑制し、省エネ効果や環境効率を高めることができます。 
都市のグランドデザインを描き、要所要所をこうした街に順次つくりかえていけば、地震などの災害時にも「逃げ込める街」になり、地域の人々の尊い命や企業活動を未来永劫守ることができます。それは同時に、「時間」「自然」「文化」という貴重な資源を日々の暮らしに活かす都市モデルとなるでしょう。
高密度でありながら、地球環境負荷も抑制できるような新しいアジア型都市モデルをぜひ実現し、世界に示す気概をもって都市再生に取り組んでいく所存です。

街をつくり、育てる仕事は、多くの皆様との終わりのない協働作業です。
これからもより多くの皆様の知恵と力を拝借し、協働して新たな結合を図って参りたいと願っております。
なにとぞ倍旧のご支援ご鞭撻のほどをお願い申し上げます。

2009年6月2日
森ビル株式会社 代表取締役社長 森 稔

森ビルの都市づくり:ヴァーティカルガーデンシティとは