MAMコレクション007:見えない都市

出展作家:イ・ブル、ジャガンナート・パンダ、黒川紀章
企画:椿 玲子(森美術館キュレーター)

本展のタイトル「見えない都市」は、イタロ・カルヴィーノの小説のタイトルを引用しています。この小説は、マルコ・ポーロが元の初代皇帝フビライ・ハンに対して、旅先で見聞した数々の驚くべき都市の様相について語るフィクションです。
人間は常に理想の社会を思い描いてきました。建築や都市は、そうした夢の一部が現出したものだと言えます。しかし、現実には、建築や都市は災害により崩壊し、時を経て廃墟化し、いつかは遺跡となる可能性を孕んでいます。すなわち理想の社会とは、実現されないからこそユートピアであり続けるとも言えるでしょう。さらにインターネットによるコミュニケーションが一般化した現代においては、建築や都市は物理的な空間を超えてネットワーク状に生成され、従来の概念では捉えきれない存在になりつつあるともいえます。
ロシア・アヴァンギャルドを彷彿とさせつつも、エスペラント語の言葉がネオンとして輝くユートピア建築のようなイ・ブルの《朝の曲》。急速なグローバリゼーションの中で、高層のハイテク建築が神話や動植物と一体化し、新種の生命体となった都市を表現するジャガンナート・パンダの《叙事詩 III》。建設から5年足らずで撤去されるという儚い運命をたどった、黒川紀章のメタボリズム建築《山形ハワイドリームランド》。本展で紹介するこれら3つの作品は、人間の理想と夢の軌跡としての建築や都市について、観る者に考察を促す機会を与えてくれることでしょう。

 

MAMスクリーン008:近藤聡乃

企画:荒木夏実(東京藝術大学 准教授)

ニューヨークを拠点に活動する近藤聡乃(1980年生まれ)は、マンガ、アニメーション、ドローイング、油彩画、エッセイなど、多様な手法を用いて独特の表現世界を築いてきました。近藤の描く世界は、自身の経験や記憶、感覚に基づいた、虚実が入り混じった夢のような印象を与えます。原初的な記憶、女性特有の身体の変化、人と自然が混然一体となる環境、興味と恐怖のはざまにある感覚など、潜在意識を暴くかのような妖しい魅力を湛えた作品は、国内外で高く評価されてきました。
すでにマンガ家としてデビューしていた近藤は、多摩美術大学在学中に「マンガを動かす」という発想でアニメーションの制作を始めます。音楽と動きを伴うその手法は、近藤の表現に広がりと可能性を与えました。本展では、これらのアニメーション作品3本とともに、初の試みとして短編マンガをスライドショーの形式で発表します。紙をめくる感覚とは一味違う、新たなマンガ体験をお楽しみください。

 

MAMプロジェクト025:アピチャッポン・ウィーラセタクン+久門剛史

企画:德山拓一(森美術館アソシエイト・キュレーター)

映画監督としても国際的に活躍するアーティスト、アピチャッポン・ウィーラセタクン(1970年タイ・バンコク生まれ)と、近年活躍が目覚ましい久門剛史(1981年京都生まれ)のコラボレーションにより制作された、新作映像インスタレーション《シンクロニシティ》を紹介します。
本作は、アピチャッポンが南米のコロンビアを舞台に製作している新作映画《メモリア》(2019年公開予定)に関連した作品で、深層心理学や脳神経学を参照しながら、個人の記憶と、社会や国家などの集合的な記憶の対比を題材としています。久門がタイのチェンマイにあるアピチャッポンのスタジオに滞在し、脚本の構想段階からアイデアを共有するなどして共同制作をしてきました。2人のアーティストが互いに影響し合いながら、対話的なプロセスから生まれた実験的な本作は、鑑賞者の想像力を掻き立てる刺激的なものとなることでしょう。